【Vol.84】歯周組織検査(歯周ポケット・歯肉の状態)|成人矯正では歯周病リスクを評価・改善してから始める当院の治療方針

成人の矯正治療で見落とされがちな重要事項のひとつが、歯周組織の状態です。10代の矯正と異なり、成人は長年にわたる歯ブラシの習慣・生活習慣・加齢変化の影響を受けており、自覚症状がないまま歯周病が進行しているケースが少なくありません。

歯周病が進行した状態のまま矯正装置を装着して歯を動かすと、歯を支える骨(歯槽骨)がさらに失われるリスクがあります。最悪の場合、矯正治療が歯の喪失を加速させる原因になりかねません。当院では、成人矯正を開始するすべての患者さんに対して歯周組織検査(ペリオドンタルチャート)を実施し、歯周病リスクを正確に評価したうえで、必要があれば矯正開始前に歯周治療を行うことを治療方針としています。

本記事では、歯周組織検査の内容・成人矯正と歯周病の関係・当院の治療前評価と改善プロセスについて詳しくご説明します。


なぜ成人矯正では歯周組織の評価が重要なのか

歯周病とは

歯周病は、歯と歯肉の境目(歯周ポケット)に蓄積したプラーク(細菌の塊)が原因で起こる感染症です。初期段階では歯肉の腫れ・出血(歯肉炎)にとどまりますが、進行すると歯を支える骨(歯槽骨)が溶けていき(歯周炎)、最終的には歯が抜けてしまいます。

成人の約80%が何らかの歯周病を持つとされており、30代以降の歯を失う原因の第1位が歯周病です(日本歯科医師会調査)。

歯周病と矯正治療の関係

矯正治療では、歯根に持続的な力を加えて歯槽骨を吸収・再生させながら歯を移動させます。この仕組みは健康な歯周組織を前提としたものです。歯周病が活動状態にあると以下の問題が生じます。

  • 骨吸収の加速:炎症が活発な歯周組織では、矯正力によって骨吸収が通常より速く・広く進行する
  • 歯の動揺増大:支持骨が少ない状態で矯正力をかけると歯が過度に動揺し、歯根が骨から逸脱するリスクがある
  • 歯根吸収リスク増大:炎症によって歯根膜の正常な代謝が乱れ、歯根が短くなりやすくなる
  • 後戻りの増大:歯槽骨の量が不足していると、保定終了後に歯が元に戻りやすくなる

逆に言えば、歯周病を治療・コントロールしてから矯正を開始すれば、これらのリスクを大幅に低減できます。


歯周組織検査(ペリオドンタルチャート)の内容

当院が実施する歯周組織検査は、歯周プローブ(細い金属棒)を歯と歯肉の境目に挿入して計測・記録する検査です。全歯について系統的に計測し、ペリオドンタルチャート(歯周組織の記録表)として記録します。

主な検査項目

  • 歯周ポケット深さ(PD):歯と歯肉の間の溝の深さを6点法(各歯の近心・正中・遠心の頬側と舌側)で計測。正常は1〜3mm、4mm以上は要注意、6mm以上は重度歯周炎の指標
  • 出血(BOP:Bleeding on Probing):プローブ挿入後の出血の有無。出血があれば歯周ポケット内に活動性の炎症があることを示す
  • 歯肉退縮量(GR):歯肉が下がった量を計測。実際の付着喪失量(CAL:Clinical Attachment Level)は PD + GR で算出する
  • 歯の動揺度:歯のぐらつきを0〜3度で評価。支持骨の喪失程度の目安になる
  • 根分岐部病変:臼歯部で歯根の分岐部(股)まで骨が失われていないかを確認
  • プラークスコア(PCR):全歯に対してプラークが付着している歯面の割合を算出。口腔清掃状態の客観的指標

歯周病のステージ分類(2018年新分類)

ステージ特徴矯正開始の目安
歯肉炎歯槽骨の喪失なし・歯肉の腫れ・出血ありスケーリング・ブラッシング指導で改善後に開始可
歯周炎 Stage I(軽度)骨吸収 15%未満・PD 4mm以下が主体基本治療(SRP)後に歯周状態が安定してから開始
歯周炎 Stage II(中等度)骨吸収 15〜33%・PD 5mm以下が主体基本治療完了・再評価で炎症消退を確認後に開始
歯周炎 Stage III(重度)骨吸収 33%以上・PD 6mm以上・歯の動揺あり歯周外科を含む積極的治療・長期安定確認後に判断
歯周炎 Stage IV(最重度)咬合崩壊・多数歯の喪失リスク矯正適応・順序を個別に慎重検討

当院の治療前歯周評価と改善プロセス

当院では、成人矯正の初診患者さんに対して以下のフローで歯周状態を評価し、必要に応じて歯周治療を先行させます。

STEP 1:歯周組織検査(全顎ペリオチャート)

矯正精密検査の一環として、全歯の歯周ポケット深さ・BOP・動揺度・プラークスコアを記録します。パノラマX線・CTで確認した骨レベルと照合し、歯周病の程度・分布を把握します。

STEP 2:リスク評価と矯正開始の可否判定

歯周組織検査の結果をもとに、矯正を安全に開始できる状態かどうかを判定します。

  • 問題なし・軽微:ブラッシング指導・スケーリングを行い、矯正治療と並行して口腔衛生管理を継続
  • 歯肉炎〜軽度歯周炎:スケーリング・ルートプレーニング(SRP)による基本治療を先行し、再評価後に矯正開始
  • 中等度〜重度歯周炎:歯周専門医(連携歯科)と協力して歯周治療を完結させてから矯正を開始。骨吸収が著しい場合は治療計画を修正する場合がある

STEP 3:矯正中の定期歯周管理

矯正治療開始後も、月1回の定期調整のたびに口腔衛生状態を確認し、プロフェッショナルクリーニング(PMTC)・フッ素塗布・ブラッシング指導を継続します。矯正装置が付いている期間は歯間部・歯頚部が磨きにくくなるため、治療中の歯周病悪化を防ぐための継続的なサポートが特に重要です。

STEP 4:矯正終了時の再評価

矯正治療終了時に再度ペリオチャートを記録し、治療前と比較して歯周状態が改善・維持されていることを確認します。悪化が見られる場合は保定を進めながら歯周治療を再開します。


矯正と歯周治療の相乗効果

適切に歯周管理をしながら矯正治療を進めることで、歯並び改善と同時に歯周環境の向上が期待できます。

  • 歯列が整うことでブラッシングしやすくなる:重なりが解消された歯列は、歯ブラシやデンタルフロスが届きやすくなり、プラークコントロールが向上する
  • 咬合の安定が歯周組織を守る:噛み合わせが改善されると特定の歯への過度な咬合力が分散され、歯周組織への負担が軽減する
  • 歯肉の審美的改善:叢生が解消されると歯肉の形態が整い、歯肉退縮部位が改善するケースもある

患者さんからよくいただくご質問

Q. 歯周病があると矯正はできませんか?

歯周病があっても、適切に治療・管理すれば矯正は可能です。重要なのは「歯周炎が活動状態にある間は矯正を始めない」ことです。炎症が消退して歯周状態が安定してから矯正を開始すれば、安全かつ効果的に治療を進められます。

Q. 歯周治療のために矯正が遅れるのが心配です

歯周治療を先行させることで矯正開始が数か月遅れる場合があります。しかし、歯周病を放置したまま矯正を進めることで生じうる骨吸収・歯の喪失・後戻りのリスクと比較すれば、先行治療は長期的に見て患者さんの利益になります。「急がば回れ」という考え方で、土台を整えてから矯正を始めることをお勧めします。

Q. 矯正中に歯周病が悪化しませんか?

適切な口腔衛生管理と定期的なプロフェッショナルクリーニングを継続すれば、矯正中に歯周病が悪化するリスクは大幅に低減できます。当院では月1回の調整のたびにブラッシング指導・フッ素塗布・プラーク除去を実施し、治療中の口腔衛生を継続的にサポートしています。

Q. 歯肉が下がっている部分がありますが、矯正できますか?

歯肉退縮がある場合は、退縮した部分の歯槽骨量・歯根の露出程度を慎重に評価します。軽度であれば矯正治療を安全に行えることがほとんどです。ただし、退縮が著しい部位を不適切な方向に歯を動かすと退縮が悪化する可能性があるため、移動方向の計画には特別な注意を払います。


まとめ

  • 成人矯正では、矯正開始前に歯周組織検査(全顎ペリオドンタルチャート)を実施し、歯周病の有無・程度・活動性を正確に評価することが当院の方針です。
  • 検査では歯周ポケット深さ(PD)・出血(BOP)・歯肉退縮(GR)・動揺度・プラークスコアを系統的に記録し、歯周炎のステージを分類します。
  • 歯周病が活動状態にある場合は、スケーリング・ルートプレーニング(SRP)などの歯周基本治療を先行させ、炎症が消退してから矯正を開始します。
  • 矯正治療中も月1回の定期歯周管理(PMTC・フッ素塗布・ブラッシング指導)を継続し、治療中の歯周病悪化を防ぎます。
  • 矯正治療と歯周管理を組み合わせることで、歯並びの改善とともに口腔全体の長期的な健康維持が実現します。

「年齢が上だから矯正は無理かも」と思っている方も、歯周状態を適切に管理すれば成人矯正は十分可能です。大切なのは、まず現状の歯周状態を正確に把握し、必要な治療を順序立てて行うこと。当院はその入り口から最後の保定管理まで、一貫してサポートします。矯正や歯周病に関するご不安は、いつでもお気軽にご相談ください。


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参考情報


監修:院長 丸川雅弘
広島大学歯学部卒業。広島タワー歯科・矯正歯科にて矯正専門外来を担当。成人矯正における歯周組織評価を診断の必須プロセスと位置づけ、歯周治療との連携のもとで安全・確実な矯正治療を提供している。

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